Webサイトの文字組みを調整する際に、line-height や font-size は意識していても、letter-spacing は感覚的に指定してしまっているケースが少なくありません。しかし letter-spacing は、可読性や視認性だけでなく、サイト全体の印象や情報の伝わり方にも影響する重要なCSSプロパティです。特に日本語と英字が混在するWebページでは、正しい理解なしに指定すると逆効果になることもあります。本記事では、実務で破綻しない letter-spacing の考え方と、用途別の正しい使い分けについて解説します。
letter-spacingとは何か
letter-spacing は、文字と文字の間隔、いわゆるトラッキングを制御するためのCSSプロパティです。日本語環境では効果が分かりにくい場面もありますが、英字や数字、記号を含むテキストやUI要素では、可読性やデザインの印象を大きく左右します。Webフォントが一般化した現在では、文字間の調整は装飾ではなく設計要素として捉える必要があります。
単位指定の基本と推奨される考え方
letter-spacing には px や em、rem などの単位を指定できますが、実務では em 指定が最も適しています。em は現在のフォントサイズを基準に相対的に計算されるため、レスポンシブ対応やユーザーによる文字サイズ変更にも自然に追従します。固定値である px 指定は、フォントサイズが変化した際にバランスが崩れやすく、長期的な運用には向きません。
body {
letter-spacing: 0.02em;
}
日本語の本文テキストでは、0 から 0.05em 程度が現実的な調整範囲であり、それ以上広げると文章が間延びして読みにくくなります。
日本語テキストに指定する際の注意点
日本語フォントは全角文字を前提に設計されているため、過度な letter-spacing は文脈のまとまりを崩してしまいます。特に長文の本文に一律で文字間隔を指定すると、視線移動が不自然になり、可読性が低下する原因になります。
日本語の読みやすさを改善したい場合、文字間隔よりも line-height の調整を優先すべきです。letter-spacing はあくまで補助的な役割として考え、必要最小限に留めることが重要です。
英字・数字・UIテキストでの効果的な使い方
英字テキストでは letter-spacing の効果が明確に現れます。見出しやボタン、ナビゲーション、ラベルといったUI要素では、やや広めの文字間隔を指定することで、視認性が向上し、洗練された印象を与えることができます。
.button {
letter-spacing: 0.08em;
}
英字の大文字のみで構成されたテキストは特に文字が詰まって見えやすいため、0.1em 前後まで許容されるケースもあります。ただし、本文に近い要素では過剰にならないよう注意が必要です。
font-feature-settingsとの役割の違い
letter-spacing は文字間を機械的に広げるプロパティであり、日本語組版本来の字詰めを行うものではありません。日本語の字間調整には、font-feature-settings による OpenType 機能の利用が適しています。
body {
font-feature-settings: "palt";
}
この設定が有効な環境では、フォント側で適切なプロポーショナルメトリクスが適用されるため、無理に letter-spacing を指定する必要がなくなります。両者の役割を混同しないことが重要です。
よくある誤った指定例
全体リセットやユーティリティクラスで letter-spacing を一律指定してしまうと、本文、見出し、UIテキストの区別が失われ、結果として全体の可読性が低下します。また、px で固定指定すると、アクセシビリティやレスポンシブ対応の面でも問題が生じやすくなります。
実務での正しい設計指針
letter-spacing は可読性を劇的に改善するための万能な手段ではなく、文字の印象や視認性を微調整するためのプロパティです。日本語の本文では原則指定せず、英字や短いUIテキスト、装飾的な見出しに限定して、相対単位で最小限に使用することが、保守性の高いCSS設計につながります。
フォントの特性とテキストの役割を理解したうえで適切に使い分けることが、letter-spacing の正しい使い方と言えます。

