Oracle の SYS_CONTEXT 関数は、現在のセッション情報(ユーザー名・IP アドレス・言語設定・DB 名など)を取得する組み込み関数です。また アプリケーションコンテキスト(Application Context)を使うと、セッション固有のカスタム変数(例: アプリのログインユーザー・テナント ID)をSQL から直接参照できる形で格納できます。
コネクションプール環境でアプリのユーザー情報を DB セッションに持たせたい場合や、VPD(Virtual Private Database)のポリシー関数でアクセス制御の判断に使う場合に特に役立ちます。
この記事でわかること
- SYS_CONTEXT(‘USERENV’, 属性名) で取得できる主要な組み込みセッション情報
- CREATE CONTEXT + DBMS_SESSION.SET_CONTEXT でカスタムコンテキストを作成する方法
- LOCAL コンテキストと GLOBAL コンテキストの違いと使いどころ
- コネクションプールでのアプリユーザー情報のセッション紐付けパターン
- VPD ポリシーと組み合わせたコンテキストによる行レベルアクセス制御
SYS_CONTEXT(‘USERENV’, 属性名) で取得できるセッション情報
よく使う USERENV 属性の一覧
-- セッションのユーザー情報
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'SESSION_USER') FROM DUAL; -- ログインユーザー名(変更不可)
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'CURRENT_USER') FROM DUAL; -- 現在の実行ユーザー(PL/SQL INVOKER RIGHTS で変わる)
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'CURRENT_SCHEMA') FROM DUAL; -- デフォルトスキーマ(ALTER SESSION SET CURRENT_SCHEMA で変更可能)
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'PROXY_USER') FROM DUAL; -- プロキシ認証のプロキシユーザー名(通常は NULL)
-- 接続・ネットワーク情報
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'IP_ADDRESS') FROM DUAL; -- クライアント IP アドレス
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'HOST') FROM DUAL; -- クライアントのホスト名
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'OS_USER') FROM DUAL; -- クライアントの OS ユーザー名
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'TERMINAL') FROM DUAL; -- クライアントのターミナル名
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'SERVICE_NAME') FROM DUAL; -- 接続サービス名
-- データベース情報
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'DB_NAME') FROM DUAL; -- データベース名
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'DB_UNIQUE_NAME') FROM DUAL; -- Data Guard 環境でのユニーク名
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'INSTANCE') FROM DUAL; -- インスタンス番号(RAC)
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'INSTANCE_NAME') FROM DUAL; -- インスタンス名
-- セッション情報
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'SID') FROM DUAL; -- セッション ID
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'SESSIONID') FROM DUAL; -- セッションの監査 ID
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'LANGUAGE') FROM DUAL; -- 現在の言語設定(例: JAPANESE)
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'NLS_TERRITORY') FROM DUAL; -- テリトリ(例: JAPAN)
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'NLS_DATE_FORMAT') FROM DUAL; -- 日付フォーマット
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'ISDBA') FROM DUAL; -- DBA 権限の有無(TRUE/FALSE)
SELECT SYS_CONTEXT('USERENV', 'AUTHENTICATION_TYPE') FROM DUAL; -- 認証方式(DATABASE, OS, NETWORK など)
カスタムアプリケーションコンテキストの作成と設定
カスタムコンテキストは3つのステップで作成します。
- CREATE CONTEXT でコンテキストの名前空間を作成する
- コンテキストを設定するパッケージを作成する(DBMS_SESSION.SET_CONTEXT を呼ぶ)
- アプリケーションまたはログオントリガーからパッケージを呼び出してコンテキストに値をセットする
カスタムコンテキストの作成・設定・取得
-- ステップ1: コンテキストの名前空間を作成する
-- ACCESSED GLOBALLY: セッション間で共有(接続プールに適している)
-- ACCESSED LOCALLY (デフォルト): セッション単位で保持
CREATE OR REPLACE CONTEXT app_ctx USING app_ctx_pkg;
-- app_ctx: コンテキスト名, app_ctx_pkg: 値をセットできるパッケージ名(信頼されたパッケージ)
-- ステップ2: コンテキストを設定するパッケージを作成する
CREATE OR REPLACE PACKAGE app_ctx_pkg AS
PROCEDURE set_app_user(p_user_id NUMBER, p_username VARCHAR2, p_tenant_id NUMBER);
PROCEDURE clear_ctx;
END app_ctx_pkg;
/
CREATE OR REPLACE PACKAGE BODY app_ctx_pkg AS
PROCEDURE set_app_user(p_user_id NUMBER, p_username VARCHAR2, p_tenant_id NUMBER) IS
BEGIN
-- DBMS_SESSION.SET_CONTEXT(namespace, attribute, value)
DBMS_SESSION.SET_CONTEXT('app_ctx', 'user_id', TO_CHAR(p_user_id));
DBMS_SESSION.SET_CONTEXT('app_ctx', 'username', p_username);
DBMS_SESSION.SET_CONTEXT('app_ctx', 'tenant_id', TO_CHAR(p_tenant_id));
END set_app_user;
PROCEDURE clear_ctx IS
BEGIN
-- コンテキストのすべての属性をクリアする
DBMS_SESSION.CLEAR_CONTEXT('app_ctx');
END clear_ctx;
END app_ctx_pkg;
/
-- ステップ3: アプリが DB に接続したらコンテキストをセットする
EXEC app_ctx_pkg.set_app_user(p_user_id => 42, p_username => 'yamada_taro', p_tenant_id => 100);
-- SYS_CONTEXT でカスタム値を取得する
SELECT SYS_CONTEXT('app_ctx', 'user_id') AS app_user_id,
SYS_CONTEXT('app_ctx', 'username') AS app_username,
SYS_CONTEXT('app_ctx', 'tenant_id') AS tenant_id
FROM DUAL;
-- 出力: 42, yamada_taro, 100
-- SET_CONTEXT の注意点:
-- ・値は必ず VARCHAR2 として格納される(最大 256 バイト)
-- ・コンテキストを設定できるのは CREATE CONTEXT で指定したパッケージのみ
-- (他のパッケージや匿名ブロックからは設定できない)
GLOBAL コンテキスト(セッション間共有)
コネクションプール環境では、複数のリクエストが同じ DB 接続を使い回します。ACCESSED GLOBALLY を指定したコンテキストを使うと、DBMS_SESSION.SET_CONTEXT で client_id パラメータと組み合わせて接続ごとに異なる値を管理できます。
GLOBAL コンテキストとコネクションプールの組み合わせ
-- GLOBAL コンテキストの作成(セッション間で属性を共有できる)
CREATE OR REPLACE CONTEXT app_global_ctx USING app_ctx_pkg ACCESSED GLOBALLY;
-- GLOBAL コンテキストでは client_id でユーザーごとに値を分離する
-- DBMS_SESSION.SET_IDENTIFIER でクライアント ID を設定する
EXEC DBMS_SESSION.SET_IDENTIFIER('request_user_42'); -- 各リクエストでユニークなIDを設定
-- GLOBAL コンテキストの値をクライアント ID ごとに設定する
EXEC DBMS_SESSION.SET_CONTEXT(
namespace => 'app_global_ctx',
attribute => 'tenant_id',
value => '100',
username => USER,
client_id => 'request_user_42' -- この client_id を持つセッションのみ参照可能
);
-- クライアント ID に紐づいたコンテキスト値を取得する
SELECT SYS_CONTEXT('app_global_ctx', 'tenant_id') FROM DUAL;
-- SYS_CONTEXT は現在のセッションの CLIENT_IDENTIFIER に紐づいた値を返す
-- リクエスト終了時にクライアント ID をクリアする
EXEC DBMS_SESSION.CLEAR_IDENTIFIER;
VPD ポリシーとコンテキストの連携
アプリケーションコンテキストはVPD(Virtual Private Database)ポリシーと組み合わせることで、テナント ID などに基づいた行レベルのアクセス制御を実現できます。
コンテキストを使った VPD ポリシー関数
-- テナント ID に基づいてアクセスできる行を制限する VPD ポリシー関数
CREATE OR REPLACE FUNCTION tenant_policy(
p_schema VARCHAR2,
p_object VARCHAR2
)
RETURN VARCHAR2
AS
v_tenant_id VARCHAR2(100);
BEGIN
v_tenant_id := SYS_CONTEXT('app_ctx', 'tenant_id');
IF v_tenant_id IS NULL THEN
RETURN '1 = 0'; -- コンテキスト未設定のアクセスをすべて拒否
END IF;
RETURN 'tenant_id = ' || TO_NUMBER(v_tenant_id);
-- 例: tenant_id = 100 という述語が WHERE 句に追加される
END tenant_policy;
/
-- DBMS_RLS で orders テーブルに VPD ポリシーを適用する
BEGIN
DBMS_RLS.ADD_POLICY(
object_schema => 'HR',
object_name => 'ORDERS',
policy_name => 'orders_tenant_policy',
function_schema => 'HR',
policy_function => 'TENANT_POLICY',
statement_types => 'SELECT, INSERT, UPDATE, DELETE'
);
END;
/
-- app_ctx.tenant_id = 100 がセットされているセッションからの SELECT は
-- 自動的に WHERE tenant_id = 100 が追加される
-- → アプリケーション側で WHERE を書かなくても行レベルのマルチテナント分離が実現できる
まとめ
- SYS_CONTEXT(‘USERENV’, …):SESSION_USER・IP_ADDRESS・DB_NAME・ISDBA など豊富な組み込みセッション情報を SQL/PL/SQL から取得できる
- カスタムコンテキスト作成:CREATE CONTEXT で名前空間を作成し、指定した信頼パッケージからのみ DBMS_SESSION.SET_CONTEXT で値をセットできる。値は VARCHAR2(256) まで
- LOCAL vs GLOBAL:LOCAL(デフォルト)はセッション固有。GLOBAL は client_id と組み合わせてコネクションプール環境で複数リクエストを分離できる
- VPD との連携:ポリシー関数内で SYS_CONTEXT を参照すると、テナント ID などに基づいた行レベルアクセス制御を自動的かつ透過的に実現できる
- セキュリティ面:コンテキストを設定できるのは指定したパッケージのみ。SQL インジェクションで直接 SET_CONTEXT を呼ぶことはできないため、安全な実装が可能
VPD(行レベルセキュリティ)のポリシー設定の詳細は Oracle VPD 完全ガイドを参照してください。セッション情報の変更(CURRENT_SCHEMA の変更など)については Oracle NLS 設定完全ガイドも参照してください。